もしも・・・(後編

(ちょっと短いです


作者
「私の最高傑作、キュピルとどうでもいい輝月という者。この二人がルイの作りし渦に飛び込み
アノマラド大陸を救おうとした。
・・・二人はどうなっただろうか?
ふむ・・・。随分と長い間あの渦の中にいたようだ。時間にして一カ月半か・・。
キュピル単騎で突入した時はたった数時間で解決したというのに。輝月という人物が事態を悪化させたようだな。
アノマラド大陸は渦に侵食され大陸そのものが消えたようだな。
だが話し合いと大激闘の末、結果的に渦は消す事が出来たようだが守るべき物が守れず結果的に敗北同然・・・。
キュピルと輝月はその事を知ってるか?・・・知るはずがなかろう!なぜならば魔道石を使って
アノマラド大陸がどうなったのかも知らずに私の作りだした世界へ逃げ込んだのだからな!
その一部始終を見て貰うにはあまりにも時間がかかりすぎる。結末だけを我々は見るとしよう。
つまらぬ余興など見る必要はない。」












・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。







キュピル
「具合はどうだ?」

ベッドの上で横たわる輝月を看護するキュピル。

輝月
「そういうお主こそ・・・容態はどうじゃ。」
キュピル
「・・・変わらずって所か。」

・・・渦の中での死闘。
結局、最後はルイの抹殺で物語は終わりを迎えた。
渦は消え、ルイが作りだした世界が崩壊しようとしたためやむを得ず魔道石を使用して
キュピルが本来住んでいた世界へとやってきた。
同時にキュピルの狂気化もいよいよ悪化しルイの後を辿ろうとしている。
・・・ルイに飲ませるはずの薬。・・・作戦は失敗し薬は粉々に割れてしまった。

渦での死闘で失った物は大きかった。


一つは上記にも述べた通り狂気化を治す薬。
これによってルイもキュピルも永遠に元の姿に戻るチャンスが失われた。

そして二つ目。



輝月は両足を失った。



ルイの攻撃によって太ももから下が泥へと変わり完全に足を失ってしまった。
不幸中の幸いか、両腕は残っているため外を出歩くときは車椅子を使っている。

輝月
「・・・アノマラドはどうなったのかのぉ。」
キュピル
「気になるか?やっぱり。」
輝月
「うぬ。お主と一緒に居る故、寂しくはないがやはり琶月の事が心配じゃな。
上手く立ちまわっておると良いが。」

・・・勿論。時間をかけすぎた事によってアノマラド大陸が消滅してしまった事を二人は知る由もなかった。

キュピル
「なんとかなってると信じている。・・・アノマラド大陸が恋しくなったりはしないか?」
輝月
「ふっ、お主が毎日看護してくれてるのだ。仮に恋しかったとしてもその穴はお主が埋めてくれる。」
キュピル
「・・・そうか。ならいいんだ。」
輝月
「そういうお主こそ、アノマラド大陸が恋しくなったりはせんのか?」
キュピル
「・・・・・・・・・。」
輝月
「・・・まだ引きずっておるのか。」

そして三つ目。

それはルイ。
ルイの死亡はキュピルの心を大きく揺さぶった。
時折暗い表情を見せルイの事をたまに思い出しているらしい。

輝月
「私という者を余所にあの女ばかり考えてるとはとんだ不届き物じゃな。」
キュピル
「・・・・・・・・。」
輝月
「・・・・・お主・・・!」

輝月が立っているキュピルの体から生えている触手を引っ張る。

輝月
「私があやつ・・ルイの代わりになれぬと言うのか?」
キュピル
「そう言う訳じゃない。」

・・・頭の中で繰り返されるあの日の出来事。
蝶の木の元でルイが告白してきたあの日。
そしてルイを永遠に失う羽目になったあの日・・・。

輝月
「・・・拗ねるぞ。」

輝月が寝返りを打ち背中を向ける。
ハッと我に帰り輝月の肩を揺する。

キュピル
「ま、まぁまぁ・・・。もう少し時が経てば今の生活に慣れる・・・俺が。
それより気分転換に外にでも行かないか?」
輝月
「うぬ、それがいい。」

輝月がキュピルの腕を引っ張って上体を起こす。
キュピルが輝月を抱きかかえベッドの傍に置いてある車椅子に乗せる。

輝月
「では参ろうか。」
キュピル
「ああ。」







城下町ギルド。
キュピルはこの街で産まれ・・・そしてきっとこの街で死ぬのだろう。
長い間戦火に脅かされていたこの街もキュピルが居ない間にすっかり平和になっていた。

脅威という言葉に全く縁のなくなったこの街でキュピルの存在は明らかに皆の鼻つまみ者だった。
旧知の仲であり、かつ城下町ギルドを救った英雄・シルクが何とか街全体を仕方なく納得させ
なんとかキュピルはこの街で生活できるようになっている。

キュピルが輝月が乗った車椅子を押す。
・・・キュピルが街を歩くと街は静かになる。

輝月
「まるでお主とワシしかおらぬ街みたいじゃな。」
キュピル
「ほんとにな。」

その時、建物から一人の女性が飛び出て来た。
彼女の名前はティル。この街で魔法商店を営む獣族だ。
獣族と言っても見た目はとても愛らしく同じ化け物でもキュピルとは雲泥の差がある。

ティル
「やっと見つけた。進行はどうなってる?」
キュピル
「通常運行。俺が戦火の火種になるのも時間の問題だな。」
ティル
「・・・やっぱりだめかぁ・・・。・・・キュピルが言っていた事になるまえに早く解決策を見つけないと・・・。」
キュピル
「・・・・・・。」
ティル
「・・・キュピル?」
輝月
「ティルとやらよ。出来ればこやつの最近の無口っぷりも治してもらいたい。
日に日に無口になってゆくのじゃ。」
ティル
「こら!だめでしょキュピル!愛人を怒らせちゃ!」
輝月
「よく分ってるではないか。」

輝月がほくそ笑む。
・・・それでもキュピルは表情一つ変えない。

輝月
「・・・・どうしたお主。今日はいつもより様子が変じゃな。
・・・お主・・・まさか。」
キュピル
「・・・すまん、輝月。ちょっと自宅に戻るぞ。
ティル、また後でな。」
ティル
「え?あ、うん・・・。」

車椅子を押して自宅に戻るキュピル。








輝月
「キュピル。・・・いよいよお主が話した最悪のケースになりそうなんじゃな?」

輝月がいち早く予測し語りかける。

キュピル
「・・・限界が来ている。・・・時々思考にノイズが入って何も考えられなくなる。
・・・衝動的に街を破壊したくなる・・・。・・・これ以上は・・・危険だ。」
輝月
「・・・では人の居ない辺境の地にでも引っ越そう。そこならばいくらでも暴れても問題なかろう?」
キュピル
「輝月を傷つけるかもしれない。・・・それだけは絶対に嫌だ。」
輝月
「ふっ、いざとなればワシがお主を止めてやろう。」

輝月が車椅子に結び付けてある刀を手に持つ。
・・・今では滅多に抜刀しなくなった輝月の愛刀。

輝月
「・・・安心するがいい。最悪なシナリオを辿る直前にお主に言われた事はしかと守って見せる。
じゃから今はそのシナリオに沿ってこの街から引っ越そうではないか。
ワシはお主と一日でも長くこの世を生きたい。」
キュピル
「・・・わかった、そうしよう。夜、人目のつかない時にこっそり行こう。」
輝月
「ふっ、今日は荷造りで忙しくなるのぉ。こう言う時こそ琶月がおれば楽なんじゃが。」
キュピル
「ギャーギャー言いながらまとめるに違いない。」




その夜。町からキュピルと輝月は姿を消した。行方は誰も知らない。





作者
「奴等が引っ越しをし誰も通らぬ辺境の土地で残りの余生を過ごすことになった。
だが計画というのは上手くいかないものだ。
では最後に。キュピルの終わりを見届け今回の世界線は終わりにしよう。
・・・クク、次はどんなパラレルワールドを作ろうか・・。」


















一週間後。


ようやく新しい土地に辿りついた瞬間にキュピルが発作を起こした。
四つん這いになって倒れ体から泥を吹きだしながら咆哮を上げた。


・・・渦を作りだそうとしている。


輝月
「・・・残念じゃ。・・・誰にも邪魔されずにようやくお主と二人生活が出来ると思ったのじゃがな。
結局夢は夢で終わってしまったようじゃ。」

輝月が刀を抜刀する。
キュピルの形が崩れあちこちに触手を伸ばして回りを侵食し始めた。

輝月
「行くぞ、キュピル。お主から伝授したこの技でワシ等の物語を終わらせよう。
・・・一閃・・・・!!!」

輝月が片手で車椅子を勢いよく前に動かし、右手に持った刀でキュピルを斬り捨てた。
・・・しっかり首を切り落とし活動を停止させた。
その場にはただの泥が残った。

輝月
「・・・役目は果たしたぞ、キュピル。
お主のいないこの世界に興味はない。すぐに追う、そこで待ってるのじゃ。」

あたかも目の前にキュピルがいるかのように喋る。
・・・そして刀を両手で持ち自らの心臓に突き刺す。
叫び声をあげたくなる痛みに数十秒絶え、そして・・・。










二人はこの世界から完全に姿を消した。





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